14年連続(2006〜2019年)で日本人が住みたい国「世界No.1」という、日本人に大人気の国マレーシア。
東南アジアの国の中ではトップクラスに発展しており、移住先としてだけでなく、
不動産投資をする国としても人気を保持しています。
今回は、「これからマレーシアへの移住を考えていて、住むための家を購入したい」「東南アジアで不動産投資ができる国を探している」そんな方に向けて、マレーシアの不動産の全体像をまとめてみました。
まず、マレーシアで外国人が不動産を購入する際の規制について、おおまかに紹介します。
マレーシアの連邦政府は、外国人が購入できる物件を、原則60万RM(約1,887万円)以上に限定しています。
物件の最低購入価格はもともと100万RM(約3,145万円:RM1=31.45円換算【2023年9月2日時点】)でした。しかし、マレーシアではコンドミニアムやアパートメントが供給過剰状態で、売れ残り不動産の処理が社会問題化しています。問題解決の一環として、外国人による不動産の購入を促すべく最低購入価格が引き下げられました。
ただし、物件の最低購入価格は、次の3つの条件によって変動します。
マレーシアには、3つの連邦直轄領と13の州があり、各州政府が自治権を持っています。外国人による不動産の最低購入価格は州政府の決定事項です。このため、不動産の最低購入価格は物件が立地する州によって異なっています。
なお、日本人に人気の首都クアラルンプールは、連邦直轄領なので原則のRM60万(約1,887万円)以上が購入の条件です。
マレーシアでは、不動産の所有権が、「フリーホールド(永久所有権)」と「リースホールド(定期借地権)」の2つに大別されます。
フリーホールド(永久所有権)は、土地と建物の両方を取得・登記できるものです。所有権がフリーホールドの場合、オーナーは永久的に不動産を所有できます。
一方、リースホールド(定期借地権)は、日本でいう不動産借地権のことで、不動産を所有できる期間があらかじめ定められているものです。日本の借地権は25〜35年が一般的ですが、マレーシアでは大半の場合に99年と長期で設定します。
期間が長期に渡るため、借地権であっても不動産評価が下がることはなく、所有権と大差ない扱いで取引されています。権利区分としては、借地の管理・所有は行政が行い、事業者が土地を賃貸する形です。
この2種類の不動産所有権に加えて、それぞれの枝となる所有権があります。「マスタータイトル」「ストラタタイトル」「インディビジュアルタイトル」の3種類です。
マレーシア不動産投資に多いコンドミニアムでは、マスタータイトルとストラタタイトルが用いられることが大半です。所有権の種類によって最低購入価格が変わります。
「MM2H(マレーシア・マイ・セカンドホーム・プログラム)」は、年齢制限なくマレーシアに10年滞在できる長期滞在ビザで、更新も可能です。MM2Hの有無によって物件の最低購入金額が変動します。
たとえば、ペナンではMM2H所有者は物件の最低購入金額が引き下げられ、RM50万から物件を取得できます。また、ケダ州ではMM2H取得者に対して最低購入価格の規制が適用されません。
マレーシアで外国人が不動産を購入する場合、購入物件の位置する州政府から許可を得なければなりません。
具体的には「外国人取得合意(State Consent)」という許可証を取得します。現地の弁護士を通じて州政府に申請すれば、申請から2〜3カ月程度で許可証を入手可能です。手数料は3万円程度です。なお、長期滞在ビザのMM2Hを持っている人は、申請が免除されます。
東南アジアでは、外国人による土地の購入や所有を認めていない国も少なくありません。たとえば、タイやフィリピン、カンボジアなどでは、コンドミニアムは購入できても、土地付きの戸建ては原則として購入できません。
しかしマレーシアでは、2006年の法改正により、外国人も土地付きの戸建てを購入可能です。
ただし、外国人はどこの土地でも購入できるわけではありません。たとえば、マレー人保留地やマレー優先政策である「ブミプトラ」で定められた関係者の所有する土地などは、外国人が購入できないと定められています。また、ジョホール州とペナン州で物件を購入する場合は、他の州とは違った特例が適用されます。
ペナン州の特例
マレーシア屈指のリゾート地を擁するペナン州では、最低購入価格と規制の内容が特徴的です。物件の最低購入金額については、MM2Hの保有有無によって2倍近い差があります。
また、次のような特例もあるので、注意しましょう。
ジョホール州の特例
シンガポールと隣接し、イスカンダル計画という国家プロジェクトでも知られるジョホール州も、外国人投資家が集まりやすいことから、以下の2つの特例を設けています。
長期滞在ビザのMM2Hを保有していると、物件の最低購入金額が下がる場合があると解説しました。MM2Hの保有者は、物件購入価格に関する規制の緩和に加えて、現地の銀行で住宅ローンを組む場合、MM2Hの非保有者よりも有利な条件で組めるメリットもあります。
たとえばMM2Hを持っていない外国人は、融資限度額が物件価格の50%で利率4.5%などの条件となるのが一般的です。その一方で、MM2H保有者の外国人は、融資限度額が物件価格の60%〜70%となり、利率もマレーシア人と同等レベルになります。
日本国内では、不動産仲介会社が要求できる仲介手数料は法律で上限が決められています。しかし、マレーシアでは仲介手数料に関する上限が決められていません。マレーシアでは、商習慣に従って手数料を請求されることが多くなります。
大半の場合は売主のみが手数料を負担するため、中古物件を購入する場合は、買主は手数料を支払わないことも少なくありません。しかし、現地の不動産エージェントを利用する場合は、後で不当に高い手数料を要求される可能性も否定しきれないので、事前に確認しておくことが重要です。
一方マレーシアにおける所有期間の起算日は売買契約書にサインした日です。つまり、建設工事に2年かかった場合は、工事中の2年間も保有期間に含まれます。したがって、工事に2年かかった場合は、残り3年でキャピタルゲイン税の税率が下がることになります。
日本と比べて固定資産税、管理費、修繕積立金などのランニングコストが非常に安いのがマレーシア不動産投資のメリットです。
日本だと固定資産税評価額(土地や家屋の地価の70%程度)×標準税率(原則1.4%)で計算します。
一方マレーシアでは、100m2程度のコンドミニアムを所有する場合の固定資産税は、年間1,000RM(約26,000円)が目安です。日本国内で同じ広さのマンションを買うと、固定資産税だけで年間10万円以上はかかるので、マレーシアのほうが安いことになります。
また、修繕積立金という概念はマレーシアにはありません。修繕については、管理会社が管理費の中から支出するため、ランニングコストの総額が、マレーシアでは非常に安くなります。
日本では、不動産売買契約書の作成など一連の手続きを担当するのは不動産会社です。一方マレーシアでは、契約書の作成や取り交わしは不動産取引を専門としている弁護士が行います。物件の売買手続きで最も重要な契約に関する部分を法律の専門家に任せられるので、マレーシアでの不動産取引は安全です。
① 不動産エージェントを探す
まず現地の不動産事情に詳しい不動産エージェントを探すことが必要です。個人の投資家が直接デベロッパーに問い合わせることも全くできないわけではありませんが、コミュニケーションやデベロッパーの見極めなどに関してリスクが高くなります。
マレーシアの不動産を扱う不動産会社は日本にも複数あるため、各不動産会社が開催しているセミナーなどに参加して比較するのがおすすめです。なお、不動産会社を絞り込むにあたっては、マレーシアに進出済みで現地に拠点を設けている不動産会社を選ぶと、より鮮度が高く詳細な情報を収集できます。② エリアと購入候補物件を絞り込む
不動産エージェントを見つけたら、物件情報を複数もらってエリアと物件の絞り込みに入ります。不動産エージェントから物件情報をもらうにあたっては、投資目的・物件の購入予算・希望利回りなどに関して、可能な限り具体的な要望を伝えることが重要です。
「いい物件を紹介してほしい」など抽象的なリクエストをすると、不動産エージェントが売りたい物件の情報しか出てこないことも考えられます。不動産エージェントが売りたい物件は、必ずしも高利回りでいい物件とは限りません。
また、日本と同じようにマレーシアもエリアによって特徴が異なります。投資目的や避けたいリスクなどによって最適なエリアは異なるので、ポイントごとに優先順位を決めておくことが重要です。③ 物件を視察する
購入する物件の候補が決まったら、実際にマレーシアに赴いて物件現地を視察するのがおすすめです。物件現地では、物件周辺の雰囲気や都心部までのアクセスなど、web検索だけでは得られない情報も多数収集できます。
そのほか、デベロッパーの担当者や現地の不動産エージェントと面談することで、本当にそのまま取引を進めて問題ないか、直接確かめることが可能です。④ 購入申込書を提出し、予約申込金を支払う
現地視察で購入をしたい物件が見つかった時は、その場で購入申込書を記入し、デベロッパーへ提出をすることで購入予約できます。もちろん、日本で購入申込書を書くことも可能です。
購入申込書の提出時には、予約申込金という購入予約のための資金(物件価格の1~3%程度)をデベロッパーに支払います。振込決済だけではなく、クレジットカードによる決済も可能です。
日本の銀行口座から海外送金すると、トラブルに遭った場合は手続きやり直しになってしまうこともあるので、可能であれば現地でのカード決済が安全です。また、日本の銀行では、窓口担当者が慣れていないと「今までやったことがないから」などの理由で海外送金を断られてしまうこともあります。確実に期限以内に送金完了するためには、あらかじめ銀行へ電話確認を入れておくなど準備が必要です。⑤ 売主と売買契約を締結する
購入申込書の提出と予約金の支払いが完了したら、売買契約の締結と手付金の支払いに進みます。売買契約書へのサインは日本でも可能です。購入申し込みを行ってから契約成立までに必要な期間は最低約1ヶ月です。
手付金に関しては、ほとんどの場合は物件価格の10%などに設定されています。指定の手付金額から支払済みの申込金を差し引いた残額を支払います。
なお、マレーシア不動産の売買契約書は英語で書かれており、全部の書類を合わせると大きなボリュームになることもめずらしくありません。英語の専門文書を読解するのはなかなか難しいものです。しかし、後々のリスクを軽減するためには、キャンセル条項やアフターサービスについてなど、最低限の事項については自ら確認することをおすすめします。
また、冒頭で説明した通り、外国人がマレーシア不動産を購入するためには、行政による許可が必要です。例えば新築のコンドミニアムを購入する場合は、州政府から許可を得ることになります。許可の取得にあたっては審査を受ける必要がありますが、審査落ちの心配はほとんどありません。⑥ ローンの申し込みをする
不動産の購入にあたってローンを利用する場合は、このタイミングでローンの申し込みが必要です。日本国内にも、国内の不動産を担保に入れることで融資を受けられる金融機関が複数あります。
また、マレーシア現地の銀行で住宅ローンを利用することも可能です。ただし、2021年時点のマレーシアでは、低金利政策を継続している日本よりも長期金利が高い点に注意を要します。マレーシア現地の住宅ローンは、日本の不動産投資ローンよりも金利が高くなることもあるので、キャッシュフローを残せるのか要確認です。
なお、マレーシア現地の銀行でローンを利用する場合は、ローンの申し込みと同時に銀行口座の開設もできます。現地で口座開設できれば、毎月の返済時に海外送金が必要ありません。家賃収入の受け取りにも手数料がかからなくなるので、可能ならば現地銀行での口座開設がおすすめです。
⑦ 段階的に購入資金を支払う
売主と売買契約を締結したら、購入資金を支払います。マレーシア不動産は、建設途中の物件とそうでない物件とで購入資金支払いのタイミングが異なる点に要注意です。新築で完成済みの物件や中古物件の場合は、残金決済のタイミングは1度だけです。
一方、プレビルド(建設中の物件)の場合は、建設スケジュールに沿って2〜4年ほどをかけて段階的に購入資金を支払います。
例えば、クアラルンプールに2022年竣工の「BBCC Lucentia Residences」では、下記のように竣工まで物件価格を段階的に売主であるデベロッパーに支払いをする流れとなっています。
プレビルドの物件を購入する場合は特に、毎回日本から海外送金の手続きをするのは煩雑です。マレーシア現地に口座を開設しておき、ネットバンキングで送金手続きをする方が手間を省けます。⑧ 物件の引き渡しを受ける
購入資金の支払いが完了したら物件の引き渡しに移ります。新築物件の場合は、物件の竣工から引き渡しまでに必要な期間は2〜3ヶ月です。
なお、物件が完成した時点で仕上がりを確認するのがおすすめです。仕上がりに関して直してほしい部分などがあれば、物件の完成から引き渡しまでの間に要望する必要があります。
もしマレーシアへの渡航が難しい場合は、不動産エージェントに依頼するなど、信頼できる人に確認してもらうのがおすすめです。⑨ 入居者募集の準備をする
物件の引き渡しが完了したら、電気や水道などインフラ関連の開通手続きをします。また、物件購入のオプションで家具家電を入れていなかった場合は、家具家電の購入と搬入が必要です。
そのほか、物件引き渡しまでの間に賃貸管理会社を決めておくと、引き渡しから入居者募集までの手続きがスムーズになります。
簡単ではありますが、マレーシア物件の購入方法を御紹介致しました。 海外の不動産物件購入の際に参考にして頂ければと思います。
執筆 瀧原 朋子