相模鉄道について

相模鉄道は、相鉄グループの中核企業です。大手私鉄16社の中では営業距離が最短ですが、神奈川県という立地に恵まれ経営は効率的です。

1964年という非常に早い時期からアルミ製車両の導入を開始、本線(横浜駅〜海老名駅)24.6km、いずみ野線(二俣川駅〜湘南台駅)11.3km、新横浜線(西谷駅〜新横浜駅)6.3kmの計42.2kmで旅客営業を行っています。特急・通勤特急・急行・通勤急行・快速・準急・各駅停車の種別があります。

最も乗降客数が多いのは横浜駅で一日平均32万9,228人(2022年の統計)、次いで大和駅・海老名駅・二俣川駅の順となり、全体では約55万人となります。

都心直通プロジェクト

2019年11月30日、西谷駅から羽沢横浜国大駅までの区間がJR直通線として、2023年3月18日には羽沢横浜国大駅から新横浜駅までが東急直通線として、相鉄新横浜線が開業しました。

これにより、海老名駅・大和駅・緑園都市駅・湘南台駅などの西谷駅以西の神奈川県内各駅からは、乗り換えなしで新宿駅や渋谷駅にダイレクトにアクセスが可能になり、利便性が飛躍的に向上しました。

直通線開業への背景

相模鉄道は、JR東日本(以下JRとします)との直通運転を開始するまで、大手私鉄の中では唯一、東京都内に路線を持たず、相互直通運転もしていませんでした。

沿線住民の通勤先は、以前から横浜市内よりも東京都心部志向が強く、2000年の調査では、沿線である横浜市旭区からの主要通勤先は東京都心3区(千代田区・中央区・港区)が横浜市西区の1.4倍に達していました。

県央地区から横浜駅への旅客輸送だけをしていればよい時代は、バブル崩壊とともに終わり、利用者の流出を防ぐため、東京都心部への利便性を改善する都心直通プロジェクトを実現させることが急務となります。

経営方針の大転換

都心直通プロジェクトの背景には、これまでの相模鉄道のビジネスモデルである沿線分譲を積極的に行って鉄道利用者を増やし、自社で開発した横浜駅西口にある横浜高島屋・相鉄ジョイナス・ダイヤモンド地下街などで休日をお過ごしくださいというものでしたが、都心直通プロジェクトは、その横浜駅の手前で半数近くの列車を東京方面に左折させてしまう訳ですから、横浜駅の賑わいに影響が出ることは必至です。

正解が分かっていても決断できない企業が多い中、相模鉄道は大転換を決断し、実行しました。

開発進む海老名市

海老名市の2023年11月現在の人口は14万186人です。

市が2023年7月に発表した人口推計の資料によると、2031年に14万5,600人、2038年に15万人へと増加傾向にあるとされています。この推計は控えめ過ぎる印象を受けますが、当面は、海老名市については人口減少の心配はなさそうです。

そのため、海老名駅周辺は小田急電鉄主導で大規模再開発が進行中です。新宿への足は小田急に軍配が上がります。

JRへの打診

相模鉄道は、JRに対し東京都心部へのアクセス向上策について相談を行います。

そこでJRから出された案は画期的なもので、両社並走区間の横浜駅付近で線路を接続するのではなく、相模鉄道の西谷駅からトンネルを掘り、JRの東海道本線貨物線にあるJR貨物横浜羽沢駅のあたりに新駅を建てて接続するというものでした。

JRにとっては、利用頻度の少ない貨物路線を有効活用することができるようになり、旅客輸送が限界に達していた武蔵小杉駅の混雑緩和策にもなり得る案です。相模鉄道はこの案を了承し、直通路線建設に向けて動き出します。

2005年に都市鉄道等利便増進法成立

都市鉄道等利便増進法は、既存の鉄道施設を有効活用することで、利用者の利便性向上と既存施設の利用促進を図ることを目的とし、国土交通大臣の認定を受けると事業費については、国と地方公共団体から合わせて3分の2の補助が受けられ、残額は鉄道建設・運輸施設整備支援機構が調達して設備を建設、鉄道会社は機構に線路使用料を支払うことで新路線を運営できます。

相模鉄道とJRは、新路線建設に同法を活用することにします。

東京急行電鉄(以下、東急とします)も合流

この時期に東急も新路線に加わりたいと名乗りを上げます。

東急は沿線に開発余地が少なくなり、2008年に東京メトロ南北線、2013年には東京メトロ副都心線と相互直通運転を開始、他社路線から自社路線に人を呼び込む戦術を展開中でした。

相鉄・JR直通線に参加すれば、新横浜駅で東海道新幹線にアクセスが可能になり、横浜アリーナや日産スタジアムへの旅客輸送にも関与できます。3社の共同事業になれば、国土交通大臣の認定もより得やすくなるという読みもあったと思われます。

JR直通線と東急直通線は、2006年5月に国土交通大臣に対して都市鉄道等利便増進法適用について申請を行い、JR直通線は2006年11月に、東急直通線は2007年1月に認定され、2010年3月にJR直通線の起工式が行われて着工しました。

JR直通線の開業

2019年11月30日、相鉄新横浜線の一部(西谷駅〜羽沢横浜国大駅)として相鉄・JR直通線が開業しました。

相鉄本線の海老名駅から西谷駅を経由して、東海道貨物線・山手貨物線を通り新宿駅(一部列車は埼京線経由で川越駅)までの相互直通運転となります。

相模鉄道とJRの境界駅は新設された羽沢横浜国大駅で、駅は相模鉄道が運営しています。JR側の主要停車駅は、新宿駅・渋谷駅・大崎駅・武蔵小杉駅です。

開業により、二俣川駅から新宿駅までの所要時間は15分短縮されて44分に、大和駅から渋谷駅までは11分短縮されて47分になっています。

総事業費は、約1,114億円でした。

なお、相鉄・JR直通線の開業を見据え、2002年に投入した相鉄10000系電車はJRのE231系と、2009年に投入した相鉄11000系電車及び2019年に投入した相鉄12000系電車はJRのE233系とデザインを除き共通仕様になっています。

東急直通線の開業

2023年3月18日、相鉄新横浜線(西谷駅〜新横浜駅)として相鉄・東急直通線が開業しました。

海老名駅から西谷駅を経由して、新設した東急新横浜線と東急目黒線・東急東横線を通り、東急の相互直通運転先である川越市駅・和光市駅・西高島平駅・浦和美園駅・赤羽岩淵駅までが結ばれました。

相模鉄道と東急の境界駅は新設された新横浜駅で、共同使用駅です。南改札は相模鉄道、北改札と車両運行管理は東急が担当しています。恐らく、新横浜駅への乗り入れは、四方八方からアクセス可能になり、更に発展していくものと思われます。

東急側の主要停車駅は、渋谷駅・中目黒駅・目黒駅・田園調布駅・武蔵小杉駅・日吉駅です。

開業により、二俣川駅から目黒駅までの所要時間は16分短縮されて38分に、大和駅から新横浜駅までは23分短縮されて19分になっています。

総事業費は、約2,909億円でした。

こちらについても、相鉄・東急直通線用の車両として、2018年に相鉄20000系電車、2021年に相鉄21000系電車を投入して備えていました。

東急新横浜線について
相鉄新横浜線と同じ事業方式で建設され、同日に開業。新横浜駅から日吉駅までの5.8kmとなります。 新横浜駅と新綱島駅が新設され、既存の日吉駅で東急東横線・東急目黒線に接続しています。

 

新路線・新駅開業の効果

相鉄新横浜線開業に伴い新設された駅は、新横浜駅と羽沢横浜国大駅の2駅です。

沿線の既存利用客にとっては、新横浜駅へのアクセス向上や、どこにいくにしても乗換回数が減って利便性が高まり、一部には、横浜行きの列車本数が減ったこと、他社路線の影響で遅延が頻発していることへの不満があるものの、総論としては、間違いなく好意的に受け容れられています。それらの経済効果について国土交通省が試算していますので、次の項目で見てみたいと思います。

経済効果について

国土交通省では、2020年9月にJR・東急との直通線開業に伴う経済効果について試算しています。それによると、経済効果は1兆168億円となっています。

内訳を見ると、乗車時間と乗換回数減少による時短効果が3,500億円、横浜駅と東海道本線などのラッシュ時の混雑緩和効果が1,500億円、建設投資による経済効果が5,000億円、環境改善などで100億円、横浜市の税収増加が68億円とのことです。

また、乗降客数の需要予測は、相鉄・JR直通線が一日あたり6万9,000人、相鉄・東急直通線が一日あたり26万4,000人と見積もられています。

コロナ禍により利用者は想定以下から9割回復へ

相鉄ホールディングス(相模鉄道の持ち株会社)の2020年3月期決算説明会資料によると、相鉄・JR直通線の利用者数は、1日あたり2万5,000人で、相模鉄道が見込んでいた5万6,000人の半数以下でした。コロナ禍による緊急事態宣言は4月7日のため、宣言前のカウントではあるものの、外出自粛やテレワークが盛んに推奨されていて、鉄道各社は軒並み同じような状況でした。

現在の相鉄新横浜線は、コロナ禍の直接的な影響は見受けられず、利用者数は見込みの9割程度まで回復して来ています。
羽沢横浜国大駅

羽沢横浜国大駅は、駅の目の前でハザワバレーの再開発が進行中です。

リビオタワー羽沢横浜国大という23階建てのタワーマンションを核とし、隣接地に複数の商業施設(ドラッグストアのクリエイトエス・ディーは開店済)を配するというものです。

タワーマンションは、総戸数357戸で、他にテナントの入居もあります。マンションは2024年5月上旬から入居可能で、現在は先着順受付で販売中です。2021年の統計では、駅の乗降客数は一日平均2万4,655人です。

新横浜駅

新横浜駅については、元々、東海道新幹線・横浜線・横浜市営地下鉄ブルーラインが乗り入れしていて整備が進んでいたこともあり、相鉄と東急の新横浜線が加わったことによる経済効果は計り難いものがあります。

新横浜駅エリアで事業を検討している企業にとっては、5路線が乗り入れしているという事実は決定的で、それを見越しての展開も行われております。

各社の乗降客数ですが、JR東日本が8万9,482人(2021年の統計)、JR東海が3万8,614人(2021年の統計)、横浜市営地下鉄ブルーラインが5万9,696人(2022年の統計)、相模鉄道が3万8,147人(2022年の統計)、東急が6万1,011人(2022年の統計)となっています。

また、これまで賑わいから取り残されていた駅東側の篠原口エリアで再開発が始動、これから、協議を重ねた上で市街地再開発組合が結成され、横浜市による都市計画決定が行われる見込みです。

ドクターイエローが頭上を通過する西谷駅

相鉄新横浜線の起点駅である西谷駅の現在は、島式ホーム2面4線の橋上駅舎の地上駅で、相鉄本線の横浜駅発着系統列車と新横浜線系統列車の乗換接続が行われる重要駅になっています。

乗降客数は一日平均で2万4,454人(2022年の統計)となり全列車停車駅に昇格しました。

駅徒歩10分圏内の中古マンションと賃貸物件の相場は、他エリアに比べて力強い値上がり傾向が見られています。

2度の道路陥没事故

新横浜トンネル直上の道路陥没事故は、1回目が2020年6月12日、2回目は2020年6月30日に発生しました。

1回目の穴は、深さ4m・長さ11m・幅8m、2回目の穴は深さ2m・長さ7m・幅6mというものです。幸いにして、人・車両・近隣住宅には被害はありませんでしたが、危険回避と復旧作業のために道路は82日間通行規制が行われ、2回目については、近隣のNTTの固定電話が2日間、光ケーブルが4日間使用できなくなりました。なお、1回目の事故直後にトンネル掘削工事は中断され、中断は2カ月半に及びました。また、6月24日には原因究明と再発防止のために東京大学名誉教授の龍岡文夫氏を責任者とする第三者委員会が設置されています。

その結果、原因は陥没現場において地盤の一部に緩い部分があり、トンネル掘削に使用しているシールドマシーンが土砂を過剰に取り込み、空間が形成されてしまったと推定しました。

再発防止策については、掘削済区間については、過去の掘削データを第三者委員会で審議された手法を用いて再確認し、土砂の取り込み過ぎが推定される場合には調査・確認の上、必要があれば追加工事を行う、これから掘削する区間については、ボーリング調査を追加で実施して地盤状況をより詳細に把握し、土砂の過剰な取り込みについてリアルタイムで監視するというものでした。その後、陥没事故は発生していません。

道路が隆起

2020年7月8日、綱島トンネル直上にある道路面が8p隆起していることに路面を監視していたトンネル工事業者が気付き、工事は一時中断されました。

原因は、すぐに判明しました。シールドマシーンが掘削した土砂面とトンネル構造物との間に隙間が生じるので、その隙間を埋めるために裏込め注入材と呼ばれる圧力をかけたモルタルを注入します。

今回は、裏込め注入材の施工時に注入材が地質の弱い場所を通って上ってしまい、地表にある道路の下に溜まって、道路面を押し上げてしまったということでした。

隆起した部分は、7月16日には元の状態に戻されました。原因がすぐに判明したこともあり、工事も再開されました。

 

相模鉄道の歴史

相鉄線と略されることが多い相模鉄道ですが、神奈川県が相模の国と呼ばれていたことが社名の由来です。

1917年12月に創立された相模鉄道は現在のJR相模線で、同時期に創立した神中鉄道が今の相模鉄道になっています。

1943年4月、相模鉄道が神中鉄道を吸収合併し、一時は相模鉄道に社名が統一されたものの、翌年6月には第二次大戦時下の非常措置として、国鉄の東海道本線と中央本線をバイパスすることができる旧相模鉄道の茅ヶ崎駅から橋本駅までの区間が国鉄に買収(現JR相模線)され、旧神中鉄道だった路線が相模鉄道として今日に至っています。

なお、1945年6月からの1947年5月までの間は、東急に経営が委託されていました。これは、1942年に開設された厚木海軍飛行場(現海上自衛隊厚木基地)への戦中戦後の貨物輸送力増強のためとされています。

横浜駅西口の開発

現在、横浜駅のある場所は、明治時代以降に埋め立てられた埋立地です。

長らく、スタンダード石油とライジングサン石油が土地を所有していて、ライジングサン石油の所有地が横浜駅(1928年10月に3代目の横浜駅として開業)に、スタンダード石油の所有地が横浜高島屋や相鉄ジョイナスがある横浜駅西口エリアになりました。

2つの石油会社は関東大震災時に大火災を起こし、近隣住民の反対運動があって設備は再建されず、雑草だらけの空地状態が続いていました。

1952年11月に相模鉄道がスタンダード石油の所有地を取得、資材置場になっていた広大な土地の開発が相模鉄道主導で開始されます。

1959年10月に横浜高島屋、1961年12月には相模鉄道本社ビル(現在は移転して横浜ベイシェラトンホテル&タワーズに建替え)、1964年12月にはダイヤモンド地下街(現在は相鉄ジョイナスの名称を使用)、1973年11月には相鉄ジョイナスが開業しています。

緑園都市の開発

緑園都市住宅地は、相模鉄道が事業者の土地区画整理事業による開発で、開発面積は122万2,000m2、計画戸数は一戸建住宅2,834戸、マンション1,761戸、その他143戸の合計4,738戸で、1986年11月から分譲されました。

緑園都市駅を中心として、人間性を追求した豊かな街づくりをテーマに開発されました。

住宅地内の道路にはクルドサック(袋小路)やループターン(輪状の道路)を取り入れて交通事故の防止に配慮、四季の径と名付けた歩行者専用道路を1kmに渡って設置、主要道路では電柱が地中化されています。

現在の緑園都市駅の乗降客数は、一日平均で2万225人(2022年の統計)となっています。

緑園都市住宅地の販売前半は、バブル経済が絶頂期を迎えようとしていた頃で、一戸建・マンションを問わず物凄い抽選倍率で、販売に関しては相模鉄道と三井不動産の共同事業になり、三井不動産の会員誌「こんにちは」の集客力と「それでも家を買いました」という三上博史・田中美佐子主演のテレビドラマの舞台の一つになった影響で、モデルルームは大変賑わいました。サン・ステージ緑園都市(西の街6棟・東の街11棟の継続物件のマンション)の倍率は、最盛期には500倍を超えたそうです。

中には、当選するまで待てないと住宅地内にある賃貸物件に引っ越しして、抽選に参加し続けたり、サン・ステージ緑園都市から住宅地内の一戸建てに買い替えしたりする人も現れました。それだけ、住みやすい住宅地なのだと思います。

 

相模鉄道は、2010年10月にグループが持ち株会社化されて相鉄ホールディングスの子会社となり、それ以前とはグループ企業間での担当事業が異なっていますが、本業の鉄道事業と同等の力を不動産事業に注いで来ました。

横浜高島屋を始めとする横浜駅西口のテナントからの賃貸収入、1948年の希望ケ丘住宅地の分譲から始まった沿線での住宅分譲事業、鉄道と不動産を車の両輪として歩んで来た相模鉄道の今後に注目です。

執筆   植木 えりか

 

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